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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)931号 判決 1982年5月27日

原告(反訴被告)

宝交通株式会社

ほか一名

被告(反訴原告)

岡田佳子

主文

1  被告と原告らとの間において、昭和五三年一一月三〇日午前一〇時二〇分ごろ、神戸市兵庫区福原町三一番一三号先道路上において発生した交通事故について、原告らが被告に支払うべき損害賠償債務が各自金二三一万七、三九二円とこれに対する昭和五七年五月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

2  原告らのその余の本訴請求を棄却する。

3  原告宝交通株式会社は被告に対し、金二三一万七、三九二円とこれに対する昭和五七年五月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告のその余の反訴請求を棄却する。

5  本訴の訴訟費用は一〇分し、その一を原告らの負担とし、反訴の訴訟費用は一〇分し、その一を原告宝交通株式会社の負担とし、その余の本訴および反訴の訴訟費用を被告の負担とする。

6  この判決は第三項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告と原告らとの間においては、昭和五三年一一月三〇日午前一〇時二〇分ころ、神戸市兵庫区福原町三一番一三号先道路上において発生した交通事故について、原告らが被告に支払うべき損害賠償債務が存在しないことを確認する。

2  被告の原告宝交通株式会社に対する反訴請求を棄却する。

3  本訴及び反訴の訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告らの本訴請求を棄却する。

2  原告宝交通株式会社は被告に対し、金一、六一一万八、三〇五円およびこれに対する昭和五七年五月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  本訴の訴訟費用は原告らの負担とし、反訴の訴訟費用は原告宝交通株式会社の負担とする。

4  第二項について仮執行の宣言

第二当事者の主張

一  本訴の請求原因

1  本件事故の発生

(1) 日時 昭和五三年一一月三〇日午前一〇時二〇分ころ

(2) 場所 神戸市兵庫区福原町三一番一三号先道路(市道山手幹線)上

(3) 加害車両 普通乗用自動車(神戸五五い四三一一号)

保有者 原告宝交通株式会社(以下、原告宝交通という。)

運転者 原告広瀬利雄(以下、原告広瀬という。)

同乗者 被告

(4) 態様 原告広瀬が加害車両を運転して前記日時に前記場所を西進中、いつたん停車し、発進して左方に車線変更しようとした際、左後方から同一方向に走行してきた訴外杉野輝雄運転の普通貨物自動車と衝突しそうになつたので、急制動をかけたところ、その衝撃と訴外杉野輝雄運転の車両との接触による衝撃により、加害車両に乗客として同乗していた被告が頸背部打撲の傷害を受けた。

(5) 治療経過

<1> 昭和五三年一一月三〇日小原病院に通院

<2> 昭和五三年一二月一日から昭和五四年七月三一日まで鐘紡病院に通院(通院実日数一三五日)

<3> 昭和五四年七月三一日症状固定

<4> 後遺障害 自賠法施行令別表後遺障害等級一四級一〇号

2  責任原因

(1) 原告宝交通は加害車両を保有し、自己のため運行の用に供しているものであるから自賠法三条所定の責任がある。

(2) 原告広瀬は左後方の安全確認義務を怠つた過失があるから民法七〇九条所定の責任がある。

3  被告の損害 金三九八万四、八九〇円

(1) 治療費 金一七七万七、九六〇円

(2) 通院交通費 金一六万〇、八〇〇円

通院一回あたりタクシー往復料金一、二〇〇円として計算した。

(3) 休業損害 金一〇六万九、九二三円

昭和五三年賃金センサス第一表の産業計・企業規模計女子労働者学歴計年令四〇才の給与額年間金一六〇万〇、五〇〇円による。

(4) 後遺症による逸失利益 金七万六、二〇七円

労働能力喪失率五パーセント、存続期間一年として算出する。

(5) 慰藉料 金九〇万円

4  弁済額 金六五〇万九、六七二円

原告らは被告に対し、金六五〇万九、六七二円を弁済した。

5  結論

よつて、原告らは被告に対し、本件交通事故について、原告らが被告に支払うべき損害賠償債務がなんら存在しないのにかかわらず、被告がこれを争うので、これが不存在確認を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  請求1(1)ないし(4)、(5)の<1><2><4>は認めるが、(5)の<3>は否認する。(4)の本件事故の態様、(5)の治療経過は反訴請求原因のとおりである。

2  同2は認める。

3  同3は争う。

4  同4は認める。

三  反訴請求原因

1  本件事故の発生

(1) 日時 本訴請求原因1(1)と同一である。

(2) 場所 本訴請求原因1(2)と同一である。

(3) 加害車両 本訴請求原因1(3)と同一である。

(4) 態様<1> 本訴請求原因1(4)と同一である。

<2> 本件交通事故の態様は、本訴請求原因(4)の態様のほか、その前段階において、次のような事故態様があつた。すなわち、原告広瀬は加害車両を運転して前記日時、場所を西進中、いつたん停車したが、それより前、西進中の加害車両は、左方の車線を同一方向に西進する車両(タクシー)を追いあげ、同車両とほぼ並行する状態となつたが、当時、加害車両が進行していた車線の前方六、七メートルには地下鉄工事が行われていたのであるから、加害車両としては、左方の車線を進行していた右車両をやり過したうえ、左方の車線に入るべきであつたのにかかわらず、そのまま一気に加速して急角度で左方の車線に入ろうとし、右車両と衝突しそうとなつたため、右車両が急制動をかけて衝突を避け得たものの、加害車両も右に転把して急制動をかけて、いつたん停止したものである。そして、二回にわたる事故態様の結果、被告は頸部、背部、腰部挫傷の傷害を受けた。

(5) 治療経過

<1> 本訴請求原因1(5)<1>と同一である。

<2> 本訴請求原因1(5)<2>と同一である。

<3> 昭和五四年八月一日から昭和五五年八月一日まで鐘紡病院に通院(実通院日数二一四日)

<4> 昭和五五年八月五日から同年一一月二一日まで荻原整形外科に通院(実通院日数五四日)

<5> 昭和五五年一一月二一日症状固定

<6> 本訴請求原因1(5)<4>と同一である。

2  責任原因

本訴請求原因2(1)(2)と同一である。

3  被告の損害 金二、二六二万七、九七七円

(1) 治療費 金三三三万七、〇八〇円

(2) 通院交通費 金四一万八、八〇〇円

通院一回あたりタクシー往復料金一、二〇〇円で計算した。

(3) 付添および家事手伝料 金四三三万八、〇〇〇円

被告は、一日当り金六、〇〇〇円の付添および家事手伝料を支払つている。

(4) 店舗家賃 金一三八万二、〇〇〇円

被告は、店舗家賃として、昭和五四年五月までは一か月金四万七、〇〇〇円、それ以後は一か月金五万五、〇〇〇円を支払つている。

(5) 休業損害 金七二八万六、四〇〇円

被告は、神戸市兵庫区福原町七四の九において、飲食店を経営し、一か月平均金四〇万四、八〇〇円の収入を得ていた。

(6) 逸失利益 金八六万五、六九七円

被告の労働能力喪失率を五パーセント、存続期間を四年(新ホフマン係数三・五六四三)で算出した。

(7) 慰藉料 金四〇〇万円

(8) 弁護士費用 金一〇〇万円

4  本訴請求原因4と同一である。

5  結論

よつて、被告は原告宝交通に対し、3の金二、二六二万七、九七七円から4の金六五〇万九、六七二円を控除した金一、六一一万八、三〇五円および昭和五七年五月二八日(判決言渡の日の翌日)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1(1)、(2)、(3)、(4)<1>は認めるが、(4)<2>は否認する。(5)<1><2><6>は認めるが、<3><4><5>は争う。

2  同2は認める。

3  同3は争う。

4  同4は認める。

五  過失相殺

仮に被告が昭和五五年一一月二一日症状固定したものであつて、本件事故発生の昭和五三年一一月三〇日から右症状固定の日まで長期にわたつて治療を要したものであつたとしても、それは被告が、受傷後、医師の指示にしたがつて入院治療をせず、患部の安静固定に努めなかつたためであつて、治療が長期化したことについて被告にも過失があるから、相当の過失相殺をするべきである。

六  過失相殺の主張に対する認否

争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件交通事故の発生について

本訴請求原因1、(1)、(2)、(3)、(4)(反訴請求原因1、(1)、(2)、(3)、(4)<1>)は当事者間に争いがないところ、被告は、本件交通事故の態様には、本訴請求原因1、(4)(反訴請求原因1、(4)<1>)のほか、反訴請求原因1(4)<2>のような態様があつたと主張し、甲第一一号証中の医師仲谷正の原告宝交通宛の昭和五五年五月八日付回答書、乙第六号証、被告本人尋問の結果(第一回)には、右主張に副うところがあるが、各成立に争いのない甲第一号証、第八、九号証、原告広瀬利雄本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第七号証、証人杉野輝雄、同仲谷正の各証言、原告広瀬利雄本人尋問の結果に照らして信用できず、他に被告の右主張を是認するに足りる証拠はない。

二  治療経過について

本訴請求原因1、(5)、<1>、<2>、<4>(反訴請求原因1、(5)、<1>、<2>、<6>)は当事者間に争いがないところ、各成立に争いのない甲第二号証、第八、九号証、第一一号証、第一七号証、乙第一号証、第七、八号証、第一六号証ないし第一八号証、証人仲谷正の証言および被告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、被告は、本件事故当日、小原病院に通院して受診し、レントゲン撮影を受けた結果、異常所見をみなかつたけれども、頭痛、項部痛、肩こり、胸部痛、背痛、腰痛、左手のしびれ感、むかつく等の症状を訴えて、翌昭和五三年一二月一日、鐘紡病院に診察を求めたので、同病院の医師仲谷正は被告に外傷の所見が認められず、頸椎、胸椎、腰椎のレントゲン撮影をしたけれども、なんら異常所見を得なかつたが、被告の右のような症状の訴えにより、「頸部、背部、腰部挫傷」の傷病名のもとに、同日より昭和五五年八月一日まで(実通院日数三四九日)通院による治療を続けたこと、医師仲谷正は、初期のいわゆる鞭打ち損傷の治療には背臥安静を必要とするところから、被告に対し、入院治療を求めたけれども、被告が入院を拒むので、入院させることなく、通院治療を続けたのであるが、被告が終始、頭痛、頭重感、項部痛を訴え、左肩、左大後頭神経、左項部、左上腕神経叢には圧痛があり、頸椎には前屈時、右側屈時、左回旋時に左項部から左肩、左背部、左腕にかけて放散する疼痛があるとし、また、左肩、左背部に重圧感、左腕、左手指にしびれ感があるとし、さらに、左背部には圧痛があるとか、腰痛、下肘痛もあるとか、両下肢にもひきつるような痛みがあるなどと多彩な症状を訴えるので、頸椎牽引療法、温熱療法、マツサージ、薬物療法、湿布等の治療を試みたが、その症状が一進一退して、改善するところがなかつたこと、そのため、医師仲谷正は、昭和五四年六月二日には、被告が症状固定の傾向にあるも、なお治療を継続する必要があるとし、同年一〇月一五日には、症状固定にもつていくことが望ましいとし、昭和五五年一月二九日には、症状固定予想時期を同年三月三一日としたが、被告が左肩、左背部、左腰部に疼痛があるとして通院し、同年五月八日には、被告から反訴請求原因1、(4)、<2>記載のような事故態様の説明があつたところから、左肩、左背部、左腰部、左下肘の疼痛が強いのは右事故態様との間に因果関係が成立するものと推定するとしたうえ、被告の通院に応じて治療を継続したこと、ところが医師仲谷正が鐘紡病院から荻原整形外科に勤務先をかえたところから、被告も鐘紡病院から荻原整形外科に転医し、同病院において、昭和五五年八月五日から同年一一月二一日まで(実通院日数五四日)通院治療を受け、同年一一月二一日に至り、同病院の医師荻原一輝によつて、症状固定の診断を受けたこと、被告の後遺障害の内容は、主訴または自覚症状としては「左腕が挙げにくい。左腕を背に回しにくい。左頭部にしびれ感がある。頭がボウとして話の要点がつかみにくく、答えにくい。うつむくと気分が悪くなる。頸を回旋しにくい。とくに左に向きにくい。左手で物を持ち上げにくい。左手の指がしびれる。時に茶腕を落す。左下肘全体にしびれ感がある。とくに足先につよく、つまづきやすい。左耳の耳鳴り。眠れない。」というものであり、他覚症状および検査結果では「拇指球筋、小指球筋、骨間筋の萎縮は認められないが、指の速かな運動がやや低下している。ホフマン反射、ワツチンベル反射、トレモー反射は認められないが、左中指、示指の先端に知覚低下を訴える。頸椎の後屈、左回旋に制限を認め、第三、四頸椎に叩打痛がある。腰椎の後屈は正常で強直性は認められないが、第三腰椎付近に圧痛がある。ラセグ症状は左右とも陰性で膝、足クローヌスとも認められないが、左足関節以下に知覚低下を訴え、右肩の運動制限を認める。」というものであつたこと、以上のとおり認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

本件交通事故の態様と右に認定した通院期間中における被告の訴える症状の内容、経過、その後遺障害の内容に照らして考察すると、被告は、おそくとも医師仲谷正が症状固定時期として予想した昭和五五年三月三一日には、右に認定した後遺障害の内容を残して症状が固定したものと認めるのが相当である。ところで初期のいわゆる鞭打ち損傷の治療には背臥安静を必要とするところから、医師仲谷正も被告に対し入院治療を求めたけれども、被告が入院を拒んだので、通院治療を続けたものであつて、このことが被告の訴える症状に比較して相当長期にわたる治療を要した原因の一つとなつたものと考えられるのであるが、医師仲谷正としては、患者である被告が入院を拒んだからといつて、安易に通院治療の方法を採るのではなく、将来の後遺症のことなどを十分に説明して入院治療によることを説得して初期の治療の完壁を期すべきであつたというべきであるから、被告が医師仲谷正の適切な治療方法に対して特に協力的でなかつたなどの事情が存しないかぎり、治療が長期化したことについて被告に過失があつたとするのは相当でない。そして、前記乙第八号証によれば、被告の鐘紡病院における昭和五三年一二月一日から症状の固定したものと認められる昭和五五年三月三一日までの実通院日数は二七六日であることが認められる。

三  責任原因について

本訴請求原因2(1)(2)(反訴請求原因2)は当事者間に争いがない。

四  損害について

(一)  治療費 金三一二万八九一〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第九号証によれば、被告の鐘紡病院における昭和五三年一二月一日から症状が固定したものと認める昭和五五年三月三一日までの治療費として金三一二万八、九一〇円を要したことが認められる。被告の本件事故発生当日の小原病院における治療費については、被告において、なんら主張、立証するところがない。

(二)  通院交通費 金三三万一、二〇〇円

鐘紡病院における通院交通費として、一回あたりタクシー往復料金一、二〇〇円を要したことは当事者間に争いがないところ、被告の鐘紡病院における昭和五三年一二月一日から症状の固定したものと認められる昭和五五年三月三一日までの実通院日数は二七六日であるから、これにより通院交通費を計算すると金三三万一、二〇〇円となる。被告の本件事故発生当日の小原病院における通院交通費については、被告において、なんら主張、立証するところがない。

(三)  付添および家事手伝料

成立に争いのない甲第五号証と被告本人尋問の結果(第一回)によれば、被告は、本件事故発生当時、神戸市兵庫区上沢通一丁目一番一一号に夫である細田達男(昭和五四年八月一六日離婚)、長女淑(昭和三九年六月三〇日生)、長男佳宏(昭和四九年六月一九日生)、次女佳美(昭和五〇年七月二五日生)とともに居住し、同市兵庫区福原町七四の九において、飲食店「とんちやん」の経営に従事しながら、主婦として家事労働にもたずさわつていたものであることが認められるところ、前記甲第八号証中の医師仲谷正の被告訴訟代理人宛の昭和五四年一〇月一五日付回答書には「看護人としての付添人は不要、ただし、本人就労不能の期間家事手伝人が必要であろうか」とあり、また、昭和五五年一月二七日付回答書には「現時での稼働能力は自用を弁ずる程度、すなわち、自分の身のまわりのことをするのがやつとという程度である」とあるのみならず、前記認定の被告の症状の内容と経過、後遺障害の程度に照らし、被告は、本件事故が発生した昭和五三年一一月三〇日から症状が固定したと認められる昭和五五年三月三一日まで、付添看護人は不要であつたが、家事労働を含めて就労はできなかつたものと認められる。しかしながら、被告は、飲食店「とんちやん」の経営に従事しながら、主婦として家事労働にも従事していたものであるが、主婦の家事労働の多様性にかんがみ、右就労不能期間中の被告の飲食店「とんちやん」における職業収入についてのみ、その逸失利益(休業損害)を考慮すれば足りると考えられるから、後記のとおり、右期間中の被告の飲食店「とんちやん」における休業損害を計上する以上、家事労働に従事できなかつたことによる損害、すなわち、家事手伝料は損害として計上しない。

(四)  店舗家賃 金八三万二、〇〇〇円

成立に争いのない乙第四、一四、一五号証、被告本人尋問の結果(第一、二、三回)に弁論の全趣旨によれば、被告が経営に従事していた飲食店「とんちやん」の店舗は被告が所有者である岡田野々江から賃借したもので、賃料として昭和五四年五月までは一か月金四万七、〇〇〇円、それ以後は一か月金五万五、〇〇〇円を支払つていることが認められるから、本件事故が発生した昭和五三年一一月三〇日から被告の症状が固定したと認められる昭和五五年三月三一日までの就労不能期間中の右飲食店「とんちやん」の店舗家賃として支払われた金額は合計金八三万二、〇〇〇円であるところ、被告の右職務不能期間中の休業損害は、後記のとおり、収入金額から必要経費を控除して得た所得を算定の根拠におくものであつて、右店舗家賃は右の必要経費に含まれるべきものであるが、現実に支払われた右店舗家賃は、損益相殺の法理に反し、控除すべきでないものを控除したことになるから、これを損害として計上することとする。

(五)  休業損害 金三二二万円

成立に争いのない甲第三号証、第三七号証、乙第二号証の一、二、第三号証、第二三号証および被告本人尋問の結果(第三回)によれば、被告は、被告の昭和五二年と昭和五三年との飲食店「とんちやん」における稼働期間、経営内容に大差はないのにかかわらず、昭和五二年分の所得税の確定申告をするに際し、飲食店「とんちやん」の同年分の収入金額を金八〇五万円、必要経費を金五六三万五、〇〇〇円であるとして、その所得金額を金二四一万五、〇〇〇円であると申告したのに対し、本件事故後、昭和五三年分の所得税の確定申告をするに際しては、飲食店「とんちやん」の同年分(昭和五三年一月一日から本件事故前日まで)の収入金額を金一、〇一四万五、五八〇円、必要経費を金五六九万二、七八〇円であるとして、その所得金額を金四四五万二、八〇〇円であると申告していることが認められるところ、被告は、昭和五三年分の所得金額金四四五万二、八〇〇円(一か月平均所得金四〇万四、八〇〇円)を根拠に休業損害を算出して主張するのであるから、被告が本件事故後確定申告をした昭和五三年分の所得税の申告所得金額を根拠にして、本件事故が発生した昭和五三年一一月三〇日から症状が固定したと認められる昭和五五年三月三一日までの被告の飲食店「とんちやん」における休業損害を算出するためには、その収入金額と必要経費の内容を原始証憑、帳簿類などによつて具体的に明確にするのでないかぎり、にわかに採用できがたいとしなければならない。そこで、昭和五二年分の所得税の申告所得金額である金二四一万五、〇〇〇円(一か月平均所得金二〇万一、二五〇円)によつてその寄与率を一〇〇パーセントとして、右就労不能期間(一六か月)における休業損害を算出すると、金三二二万円となる。

(六)  逸失利益 金一一万四、九五四円

被告の前記認定の後遺障害の程度、内容に照らせば、その労働能力喪失率は五パーセント、存続期間は一年をもつて相当とするから、これにより前記昭和五二年分の申告所得金額金二四一万五、〇〇〇円を基準として逸失利益を算出すると金一一万四、九五四円となる〔2,415.000×0.05×0.952(新ホフマン係数)=114,954円〕

(七)  慰藉料 金一〇〇万円

本件事故の態様、被告の受傷の内容、程度、本件事故発生の日から症状が固定したものと認められる昭和五五年三月三一日までの通院日数、後遺障害の程度、内容、その他諸般の事情に照らし、被告が本件事故によつて被つた精神的苦痛に対する慰藉料額は金一〇〇万円をもつて相当と認める。

(八)  損害の填補 金六五〇万九、六七二円

原告らが被告に対し、金六五〇万九、六七二円を弁済したことは当事者間に争いがない。

(九)  弁護士費用 金二〇万円

(一)、(二)、(四)、(五)、(六)、(七)の合計金八六二万七、〇六四円から(八)を控除すると被告の請求し得る損害額は金二一一万七、三九二円となるところ、被告が弁護士深草徹に本件訴訟の提起追行を委任し、弁護士会所定の相当の報酬を支払うことを約したことは弁論の全趣旨により認められるが、本件事案の難易度、本件訴訟の審理の経過と内容、右認容額、その他諸般の事情にかんがみ、相当因果関係の範囲にある損害賠償額としての弁護士費用は金二〇万円をもつて相当と認める。

五  むすび

以上のとおりであつて、原告らは被告に対し、本件交通事故による損害賠償として各自金二三一万七、三九二円とこれに対する本件事故発生の日の後である昭和五七年五月二八日(被告の定める始期)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき債務があるが、これを超えて支払をなすべき債務はないから、原告らの債務不存在確認を求める本訴請求は、右限度を超える部分は正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却することとし、被告の原告宝交通に対する反訴請求は、右限度において正当として認容するが、その余は失当として棄却することとし、本訴および反訴の訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

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